青い

世界と青二才

ちょっといいはなし

こんな話を聞いた。

先生がまだ片田舎の農業高校で世界史を教えていた時のことだ。

 

「俺ァ、族に入ってってから、つよいんだぜ」

「学校なんてつまんねーぜ」

「女の子にモテたいぜ」

「俺たちに先生なんていらねーぜ」

*1

 

髪の毛は千紫万紅といえば聞こえは良いが、赤・黄・緑で信号が出来てしまったり、真緑でインコもびっくりしてしまうような色ばかりに染められていたそう。そして、揃いも揃ってアホらしい。先生曰く「馬鹿といっても良いけど、そんな風には思えなかったな〜。なんか可愛くてさあ。」…だそうである。

 

農業高校と言えば、実習がある。実習といっても、《果物を育てましょう》という難易度で言えばやさしい実習である。しかし、ヤンキーたちはその実習が嫌で嫌で本当に嫌で仕方がない。というのも、夏休みになろうが空から槍が降ってこようが学校まで水やりに来なければならないからだ。

 

「俺ァ、族に入ってっから、ムリだぜ」

「学校も休みだぜ」

「水やりで女の子にモテないぜ」

「俺たちに水やりなんて必要ねーぜ」

 

勿論、ブーイングの嵐。ふてくされる面々。

しかし何と言っても農業高校であるため、実習は必修科目だ。他の科目なら目を瞑ってやることもできるが、実習はそうはいかないらしい。仕方がなく、各自で好きな果物を選ぶ。

揉めると思いきや、すんなり決まった。皆、何故かメロンで意見が一致した。先生曰く「どうせ育てるなら大きなメロンだろって。テッペンとりいく気持ちで育てるって。すいかでも良いじゃんねえ」らしい。

 

すぐにメロンを育てる実習が始まった。

実習が始まってから大変だったそうな。

台風でビニールハウスがやられてしまったり、バイクで事故ったやつがいたり。それでも、皆、実になったあの、プリプリのメロンを見るために頑張って育てた。そんなある日、札付きの悪で知られたテンプレヤンキーが先生のもとへ寄って来た。

 

「おい。」

「…。」

「せんせえ」

「どうしたの?」

「せんせえ、あのよ、め、メロンの花が咲いたあ。こんなちっさいの」

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先生はとても喜んだ。メロンの、ふかふかの、そしてつやつやの花に気付いたことに。

 

「メロン、できたらどうするの?」

「ばあちゃんに見せる」

 

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「土を触ると優しくなる。あー、もしかしたら、なんか殻のようなものが割れてもともと備わっていた優しさへ戻っていくのかもなあ。」

「先生、それで、メロンはどうなったんですか?」

「うーん、続きはまた今度おしえてあげるよ。」

「えー」

 

先生は莞爾として笑った。

 

その後、私は続きを聞くことなく卒業してしまった。何故こんなことを書いたのかというと、自宅のポストに先生が亡くなった旨のハガキが届いていて、それでふいにこんなことを思い出した。メロンが実になり、ばあちゃんに見せることができたのかは知らない。

でも、できていたら良いなあ、無事に見せることができていれば良いなあと願わずにはいられないよ、先生。

*1:ヤンキーたちの言葉より